突然の方針転換
1.理事長からの発表
2.法人の方向性
3.大量の退職者
4.私自身の方向性
5.最後の転職活動
1.理事長からの発表
理事長からの発表は耳を疑うものでした。
「決算の結果、約10年ぶりに赤字になりました。銀行にそのことを報告したところ、新病院建設の融資をする前に財政を建て直すよう意見を受けました。これから、組合とも団体交渉を始めることになりますが、まずは全職員が一丸となって支出の抑制に努め、収入の増加を目指すようにお願いします。」
大きな食堂に集められた職員は動揺を隠せませんでした。
赤字の細かな額までは覚えておりませんが、この時点では翌年度には回復する見込みであるとのことでした。
2.法人の方向性
赤字決算を受け、法人の幹部が一番に手をつけたところは、やはり人件費でした。
私の経験上、企業運営の中で簡単に経費を削減できるものは人件費ですが、それを削ることにより、その企業からは優秀な人材が外に出ることと新しい人材の確保が困難になることは明白でした。
優秀な人材が減少すると残された職員の負担が増し、その不満がたまると次の優秀な人材も辞めていくという悪循環になります。
しかし、この医療法人の理事会ではあっという間に定期昇給の半減案が通りました。
経営という側面では最悪の方向性が出たのです。
3.大量の退職者
大きな医療法人でしたので、組合との交渉が年に2回ありました。
これまでは、その交渉の内容はとても前向きなもので、その年のボーナスにどれだけプラスαをできるのかという内容でした。
しかし、今回はプラスαどころか、ボーナスが支給されるかどうかも分からない、定期昇給が半減と、とても前向きとは考えられない内容の交渉でした。
この団体交渉の場で今でも記憶に残っているシーンがあります。
幹部の一人が「お前ら組合員は楽してる。」と発言されたことです。
その幹部は医療の技術者にも関わらず部長級から一職員に降格させられ、すぐに院内の掃除係になっておられました。
それだけピリピリした状態でしたので、当然大量の退職者が続出したことは言うまでもありません。
4.私自身の方向性
退職される方は、何かしらの資格を持たれていたため慢性的な人手不足の業界では引く手数多です。
医師、看護師、レントゲン技師、検査技師など、より大きな病院に移ることができる人ばかりです。
医療法人の収入の多くは診療報酬と呼ばれる点数式で計算されるものになります。
特に看護師の数は病床数、つまりベッドの数との割合が重要になり、ベッドに対して看護師の数が少ない場合、診療報酬も下げられるシステムでした。
看護師が大量に退職し、当然ですが新しく入職してくる者もなく、一瞬にして少しの経営難が大きな経営難に向かっていきました。
ここで、何の資格もなく、結婚、マイホームの購入、そして子どもが生まれたばかりの私にも決断のときが迫ってきたのです。
残るも地獄、転職するのも地獄。
どうしたものかと悩んでいるときに一つの新聞記事を目にしました。
5.最後の転職活動
妻の出産で里帰りをしていた私たちは、妻の実家と私の実家を行き来しつつ、そこを拠点として仕事に通っておりました。
昇給が半減したとはいえ、まだまだ法人の存続は見込むことができましたので、とりあえず目の前の仕事に打ち込むしかありませんでした。
過去の辛かった転職活動と同じようにはできないという家庭事情もありましたので、選択肢はなかったということが本音です。
しがみつくと言えば聞こえは悪いですが、腰を据える覚悟をしていたのです。
しかし、転職の神様は私を見捨てていなかったようです。
実家から通勤をしていた私はとある市役所の職員募集の記事を目にすることになります。
これまでにも公務員試験は受験していたものの後一歩のところで不採用になっていたのですが、勤務している医療法人の経営難、子どもが生まれて偶然、市役所職員の新聞記事を目にした私。
まだチャンスはあると決心しました。
仕事覚えられない萎縮