「まさか君が辞めるなんて思わなかった」
その言葉を聞いた瞬間、手が震えていたことを今でも覚えています。私は、いわゆる“会社の期待の若手”とされていました。
評価もそれなりに高く、年齢の割に責任ある業務も任されていました。だからこそ、退職を切り出すことには、大きな勇気と覚悟が必要でした。
評価と現実のギャップ
入社から数年、私は全力で仕事に取り組んできました。売上目標を達成すれば、社内で表彰され、「若手のホープ」とまで呼ばれるようになりました。
ですが、外からの評価とは裏腹に、自分の中では常に違和感がありました。
過度な残業、休日返上の業務、息つく暇もないほどのプレッシャー。成果は出ているものの、毎日ギリギリの精神状態で働いている感覚でした。
それでも、周囲の期待を裏切るのが怖くて、「辞めたい」なんて言える雰囲気ではありませんでした。
決意と恐怖
そんな中で、ある朝突然「もう無理だ」と心が折れた瞬間がありました。
疲れ切って鏡に映る自分の顔を見たとき、「このままここで人生を終えてしまうのでは」と思ったほどでした。
退職を決めた後も、「本当に言えるのか」という不安でいっぱいでした。
直属の上司は厳しくも面倒見の良い方で、私のことをずっと信じて任せてくれていました。裏切るような気持ちになり、なかなか切り出せずにいたんです。
上司を説得するまでの1ヶ月
ようやく退職の意志を伝えた日は、手が震えていました。
上司は開口一番、「引き留めるつもりはないけど、理由だけは教えてくれ」と。
私は正直に、疲弊していること、将来に不安を感じていることを話しました。
すると、「もう少ししたらポジションも上がって、楽になると思ってた」と言われ、そこから引き止めが始まりました。
配置転換の提案や働き方の改善案も出されましたが、私の中ではもう気持ちは固まっていました。とはいえ、感情的にならずに丁寧に話を進めた結果、最終的に退職を受け入れてもらえたのは、それから約1ヶ月後のことでした。
退職を伝えるのは、本当に勇気のいることでした。特に「期待されている側」の人間にとっては、周囲の期待や責任に縛られやすいからこそ、言い出すのが難しい。
でも、あの一歩を踏み出したことで、今は心から納得のいくキャリアを歩めています。
何より、あの経験が「自分の人生を自分で選ぶ」という強さをくれました。